TOKYO ART BOOK FAIR 2019
10年目
7月13日14日15日の三日間、今年で10年目を迎えるTOKYO ART BOOK FAIRが開催されている。10年という節目を迎えたフェアはこの春にリニューアルしたばかりの東京都現代美術館に場所を移して開催されている。独創的なアートブックやZINEを製作販売する国内外の出版社やギャラリー、アーティストが集うこのフェアは今年も300組以上の出展者で賑わいを見せている。会場には沢山の来場者も訪れて大盛況でまるで竹下通りのように多くの人でごった返し状態となっている。今回の会場である東京都現代美術館は展示環境も良く非常に質の高いフェアになっているのでまだ行っていない方は是非チェックしてほしい。
今年で10年目のTOKYO ART BOOK FAIR 。
会場はたくさんの人々で大混雑状態。
オリジナリティー溢れるZINEなどがいっぱいある。
今まで知らなかったマイナーな出版物もとても多い。
売る方も見る方も皆ワイワイと楽しそうだ。
ZINEからは今の雰囲気のアートが垣間見れる。
なんとヒロ杉山さんの初期の作品集を発見!
ベビーカーでやってくる家族連れもたくさんいた。
古いアート本やカタログなども売っている。
まるで竹下通りのような盛況ぶりがよくわかる。
国をフィーチャーする企画展ではアメリカを特集していた。
壁面全部を使ってアメリカの出版物が展示されていた。
アメリカ展の壁面展示。さすが美術館だけあって見やすい。
五木田智央の作品集やたくさんのアート本があった。
ポスターやTシャツなどもたくさん売っている。
Tシャツのセレクションはかなりいいのでアートな一品を是非!
海外からの出店者や来場者もすごく多かった。
魂がふるえる
過去最大の個展
六本木の森美術館で塩田千春の展覧会「塩田千春:魂がふるえる」が10月27日まで開催されている。6月20日から開催されているこの展覧会をやっと見に行けたのだが過去最大の個展と言うだけあって作家の25年以上にわたる制作活動を網羅するような個展となっていた。ベルリンを拠点に国際的に活動する塩田千春は様々な表現形態で作品を発表し続けて来た。今回の展覧会ではそれらを包括的に展示しているが立体作品やパフォーマンス映像、写真、ドローイング、舞台美術の関連資料などを今回の展覧会のために制作した新作とともに見ることができる。中でも赤い糸や黒い糸をギャラリー空間内に張り巡らしたインスタレーションの迫力は圧巻だった。生と死や我々はどこへ向かっているのだろうかと言った塩田千春の根源的な問いかけが様々な作品となって訴えかけてくるが女性作家の表現の特徴なのかそこに身体的な繋がりや痛みのような独特の感覚を感じる展覧会だった。
赤い糸が黒い骨組みの船から溢れ出して空間を埋め尽くす。
パフォーマンスの写真から生と死を問う作家の気迫が感じられる。
地中に生きるというような試みのための水彩シリーズのようだ。
何かの臓器のようにも見れる立体作品たち。
美術館内の柱を色のついた糸でぐるぐる巻きにした作品。
東京の景色をバックグラウンドに様々な玩具のオブジェが並ぶ。
古びたグランドピアノとその周りを埋め尽くす黒い糸。
黒く焦げた木の椅子も黒い糸に囲まれて埋め尽くされる。
古く朽ち果てた窓枠や様々な木枠が無数に並ぶ立体作品。
塩田千春は舞台美術も多く手がけているが圧巻だ。
古い旅行鞄が赤い糸でまるで川のように吊るされている。
JULIAN OPIE
イギリスを代表するアーティスト
今日から9月23日まで新宿にある東京オペラシティーアートギャラリーにてジュリアン・オピー展が開催されている。1980年代よりヨーロッパで注目を浴びたオピーはダミアン・ハーストなどと共にイギリスを代表するアーティストになったと言える。今では彼の作品は世界中の美術館に収蔵されアートフェアなどでも必ず彼の作品に出くわすほどだ。点と線という最小限の表現で人や街、風景や動物など様々なモチーフを表現する。また、平面作品にとどまらずデジタルサイネージを使った絵が動く作品や立体的な彫刻なども手掛けている。今回のオペラシティーの展示は規模もでかく最新作がたくさん見れるので是非お勧めします。夏休みに子供が見に行くのにもとても楽しいと思うアートです。
歩く人々はよく出てくるオピーの好きなモチーフだと言える。
デジタルサイネージを使った作品。ただただ人が歩いている。
立体的な彫刻作品も独特で無機的な表情を見せる。
ビル群の立体作品。無味な都会の寂しさを感じる。
沢山のカラスが動きながら周りをキョロキョロ。
買い物袋を下げてヘッドフォンで音楽を聴く男性。
新しい作品ではラバーなのか厚みのある素材での表現を試みている。
人と比べると今回の作品の大作の圧倒的な大きさがよく分かる。
画家とモデル
画家とモデルの関係性
六本木のShugoArtsギャラリーにて小林正人の展覧会「画家とモデル」が7月6日まで開催されている。小林正人は1957年生まれで東京芸術大学美術部油画専攻を卒業した。その後は1996年のサンパウロビエンナーレに日本代表作家として選ばれたりキュレーターのヤン・フートに招かれ渡欧して2006年までベルギーのゲントに拠点を置いて活動を続けた。高校時代に愛する人物を描くために芸術の世界に足を踏み入れたという作家にとって画家とモデルの関係性は画家を志した時から今日まで変わらないテーマとなっているようだ。今回の展覧会でもモデルを描くという強い衝動と情熱のような雰囲気が絵画から伝わってくるようだ。画家とモデルいう絵画の世界における最も古典的な概念を描き続けることが小林正人にとっての根源的な動機であり続けているのがよく分かる展覧会だと思った。
入り口に展示された巨大な絵のモデルは後ろから心臓を撃ち抜かれている。
小林はキャンバスを張りながら手で描くという方法も発案した。
馬にまたがる人物のスケッチは荒々しいタッチだ。
歪んだキャンバスに人物の表情が浮かび上がる。
裸婦のドローイングにも情熱と感情が込められている。
スケッチブックからむしりとった紙に描かれた馬とモデル。
筆を口にくわえて食いしばるのは作家自身の自画像か?
ドローイングとモデルからのメッセージの描かれた紙切れ。
馬に乗る3人の人物ドローイングは素っ気なくピンで壁に貼られている。
測られた区体
菅木志雄の個展
六本木の小山登美夫ギャラリーにて菅木志雄の個展「測られた区体」が7月20日まで開催されている。1960年代から70年代にかけて起きた芸術運動「もの派」の主要メンバーであった菅木志雄は「もの派」への再評価が著しい近年において注目を集める作家の一人である。1968年の最初の個展以来国内外で開催した展覧会は400を超えるというベテラン作家だがその作品は色褪せることはなく常に自由で敏感な感覚によって生み出される。板や角材、木の枝や小石、セメントブロックや紐など様々なものを使って生み出される立体作品はそれぞれが挑戦的であるとともに独自の美の意識が感じられる。年老いてもなお勢力的に作品を作り発表し続ける菅木志雄の新作を見る絶好の機会となっている。
流木のアレンジと黒い線の交わりがリズミカルだ。
木の枠組みをよく使うが様々な試みで作品化される。
中央に重なる木片には色彩を施しているものも混ざっている。
極限までシンプルな組み合わせは余白を際立たせるようだ。
ランダムに並べられたような木片が面白い。
木枠の秩序と白い紙のリズムが不協和音を呼ぶようだ。
様々な方向に突き出た木のかけらが独特のバランスを生む。
白い背景に貼り付けられた小石とそれを繋ぐ小枝のバランス。
ギャラリー内には壁面以外にインスタレーションもある。
Survived!
開廊25周年記念グループ展
六本木のcomplex665にあるタカイシイギャラリーにてギャラリーの開廊25周年記念グループ展「Survived!」が開催されている。complex665の1階と3階に加えAXISビル2階にあるタカイシイギャラリーフォトグラフィー/フィルムの3会場で展開するこの記念展のcomplex6653階で開催されているグループ展を見にいった。タカイシイさんは80年代にLAでファインアートを学びながらプレイベートディーラーとして活動していたという。その後、同時代の美術の動向を日本にも紹介すべく1994年に東京の大塚にタカイシイギャラリーをオープンした。こけら落としはラリー・クラークの展覧会で大変な反響だったそうだがこの展覧会をきっかけに荒木経惟と繋がり今年で27回もの展覧会を開催してきた。また1995年の森山大道展の際に刊行した写真集をきっかけに出版事業も開始し現在までに50タイトルを超える書籍を刊行している。90年代にはジャック・ピアソンやクリストファー・ウールといった海外の作家をいち早く日本に紹介するなど非常に精力的に現代アートの普及に尽力している。今回のグループ展でもこの四半世紀の間にタカイシイギャラリーが共に歩んできた幅広い作家の作品が一望できて非常に興味深かった。海外のアートフェアにもタカイシイは積極的に出店しているので海外で石井さんと会うことも頻繁にあって話を聞いたり情報交換したりすることもあるがクールな見た目とは裏腹なアートに対する熱い思いには敬意を評したい。
スターリング・ルビーの作品は近年大人気で高額になってしまった。
荒木経惟のポラロイド写真の作品はすごい数で圧巻である。
こちらも高額な作家になってしまったクリストファー・ウール。
淡いタッチと色彩がいいサンヤ・カンタロヴィスキーの作品。
タカイシイは五木田智央にも早い段階で注目して紹介していた。
愛嬌のある変なロボットはショーン・ランダースの作品。
独特の雰囲気があってとても好きな作家、村瀬恭子の作品。
クサナギシンペイのペインティング。海外のフェアでも紹介していた。
こころの温度
若手イギリス人アーティスト
銀座のGINZA6にあるギャラリーTHE CLUBにて8月24日までニコラス・ハットフルの展覧会「こころの温度」が開催されている。ニコラス・ハットフルは東京生まれの若手イギリス人アーティストで現在はロンドンを拠点として活動しているそうである。作品はロンドンのサーチギャラリーを筆頭にジョルジョ・エ・イザ・デ・キリコ財団やローマ現代アート美術館など数多くの美術館で展示されているそうだ。i padで描いたスケッチを元にキャンバスに油彩で描きその上からスプレーペイントを駆使するという独特な手法で描かれる作品は浮遊感や透明感のある不思議な雰囲気の絵画世界となっている。また日本生まれの彼にとって原点となるのは小津安二郎のカラー映画の世界だそうでそこによく登場する風に揺れる掛け布団やシーツ、タオルといったものが作家の記憶に強く残っているという。日本に生まれるというユニークなバックグラウンドとそれに関係した小津安二郎の原風景の記憶を見事に絵画作品として表現しているのが
素晴らしいと感じた。
風に揺れる洗濯物などは揺らぎ重なりつつ浮遊する。
油彩の上からスプレーペイントとはかなり独自な技法だ。
ちょっとシュールレアリズムのような感じのする絵である。
アイスクリームと空を飛ぶそれをスクープする器具。
とても激しい動きとリズムを感じる力強い絵である。
スプレーを使うからか一種独特の雰囲気が画面に漂う。
ギャラリーのレセプションの背面の壁にも作品があった。